2009年2月10日火曜日

「山水人日記 壱号」 阪本 守

 ■極上の静寂

12月の声を聞くと、豪雪地帯特有の冬を迎える準備がある。薪の確保や雪囲いをして、本格的な雪の到来を待つのである。渋柿の皮をむいて竹串に刺し、縁側の軒に干した。正月には貴重なスウィートに生まれ変わる。仲間も次々と山を降りて現金収入の為の活動を始めた。よい年を迎えるには、厳しい年の瀬だ。ご近所のNPO団体・山帰来(サンキライ)では、蕎麦打ち体験やお餅つきや〆縄を編むという会が開かれ、普段、話すこともない村の子どもたちやお年寄りたちとひとつ屋根の下に集い、楽しいひとときを、過ごした。

山水人村日記

■ブナの育む 動植物 清水(ショウズ)も白一色

いろりを持つ家の構造はまるで煙突の中に住む様なもので、鋳物のストーブは欠かせない。薪割りは、「春の仕事だ。」と今頃、気付く。
雪囲いをする前に大雪警報がニュースに…。遠雷に始まり、近くに落雷し、イブの夜、それまでの霙雨が雪へと変わり、ブリザードが吹き荒れ、2晩降雪、積雪80㎝。

山水人村日記

■天皇誕生日に

星へのパスを手にした“詩人・ナナオ・サカキ”享年85歳。
歩き続けた詩人は、天空へ旅立った。イブに通夜を、クリスマスには、長野県・大鹿村に集う、多くの物語をともにした縁者に見守られながら、アルプスの空へと旅立った。
彼への感謝と哀悼を込めて彼の一面を書き記す。
戦事下の部隊で、上官からの鉄拳制裁の話に為った時、彼は事も無げに「冬は良いんだよ、まだ。すこし体が暖まる。」と笑った。また、敬礼嫌いの兵隊だった彼が、心から敬礼したという敵機との遭遇。彼は見張りとして機銃照射の音響く上空を見上げた時、手に持つ自動少銃を浜辺に置いて両手を上げた。低空飛行してきたグラマンの操縦士が、コックピットの中から笑って敬礼していた。彼も思わず敬礼した。お互いが似ていることを一瞬に理解し、微笑を交した。「向こうも、ロングヘヤーで、顔も鬚だらけだったんだよ。」と、昨日の事の様に、相好を崩した。
旅の途中、東シナ海のとある洞窟で、シャレコウベを見つけた彼は、愛用の歯ブラシでひとつひとつを磨いて、その御霊を慰霊した。「江戸時代の天然痘罹患者の遺骨」だという、村人が次第に集まり、洞窟での霊を悼む宴となった。旅の詩人「ナナオ・サカキ」彼は星空のウォーカーとなる。盟友カルフォルニアのゲーリー スナイダーは、
「Friends,
Nanao has taken off to walk the star-path  」と、哀悼の辞を送った。